痛みがないまま発症して進行しやすい「大人のむし歯」
「むし歯は子どもに多いもの。実際に最近は、歯が痛むことなんてない……」などと、むし歯に無防備になっていませんか? これは誤った思い込みです。大人、特に中高年者によくみられる「大人のむし歯」は、ほとんど痛みが出ないまま発症して進行してしまうことがあります。歯周病だけでなく、むし歯への対策もしっかりと行いましょう。
詰め物やかぶせ物と歯の間にプラークがたまって「再発むし歯」に
代表的な大人のむし歯は、治療した歯が再びむし歯になる「再発むし歯(二次う蝕:うしょく)」です。
むし歯治療で詰め物やかぶせ物をする際、歯科用セメントで歯に接着させます。長い年月とともに詰め物などが変形したり歯科用セメントが劣化すると、詰め物などと歯の間にすき間ができることがあります。このすき間にむし歯菌を含むプラーク(歯垢)がたまると、治療した歯がまたむし歯になってしまうのです。
また、昔はむし歯治療で神経(歯髄)を抜くケースがめずらしくありませんでした。現在の中高年者の治療した歯は、神経を抜いていることが比較的多く、神経を抜いた歯は当然、痛みません。このため、気づかないうちに詰め物などの下に、大きな穴が開くほど進行してしまうこともあります。
ちなみに、現在はむし歯が痛んでも、歯の神経をできるだけ残す治療が行われています。
加齢や歯周病で歯肉が垂れ下がり、“長くなった歯”にできる「根面う蝕」
もうひとつの大人のむし歯は、加齢や歯周病で歯肉が垂れ下がったために露出した歯の根元部分(歯根)、いわば“長くなった歯”にできる「根面う蝕」です。
歯肉の上に出ている歯の表面は硬いエナメル質に覆われ、むし歯菌などにより産生された酸による侵食を防いでいます。これに対して、歯の根元部分(歯根)はエナメル質と比べると弱い酸で侵食される象牙質がむき出しになっています。ここにむし歯菌を含むプラークがたまると、容易にむし歯になるうえ、酸による侵食が早く進みます。
歯根の象牙質は、さまざまな刺激で厚みを増し、歯の中心部を通る神経から刺激を遠ざけ、痛みが伝わりにくくなって、神経が残っている歯であっても痛みを感じにくくなります。こうしてほとんど痛みが出ないまま、根面う蝕ができて進行していくことになります。